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2020.03.16
Detail daily life of the architect
HIROO ASAI
始末
「始末」この言葉は、しめくくりをつける。とか、始まりから終わりを意味します。みなさんご存知ですね。
「始末がいい」とは、あまり言いませんが、気持ちよく感じたお話し
ある村にcafeを作り、そこに村の人を居座らせようと企んでいて、そのために、美味しいコーヒーを入れる必要がある。
そこで、この企画の共犯者で村人(以前は常滑の人)Oさんと名古屋のコーヒーKさんにドリップ講義をお願いした。
いつも多くの人であふれるような人気店なので、断られるかと思っていたけでど、すんなり受け入れてくださった。
指定された日の夕方に道具を持ってOさんとコーヒーKへ向かった。実にわかりやすい講義で、プロらしい作法や決まりを教わった。
Cafeの世界はちょっと前にサードウェーブといって、科学的にドリップするというのが世界的に広がった。「喫茶店」世代の僕も自宅でドリップしていてるが、我流で納得していた。コーヒーKさんに教わったことは、とてもシンプルで。豆の量、ポットの温度、そしてドリップの時間と落す量の4つのポイント。この中で僕が一番重要と思ったのは、ドリップの時間。それ以外は手順さえ間違わなければ、誰でも正確にできるが、ドリップする時間は体感して覚えるしかない。ストップウォッチを眺めながら、体で覚えること。その先にはプロの仕事がある。まずは、いつでも同じ味を出すこと。
コーヒーKに初めて行ったのは、いつだったか記憶にないが、最初、マスターのドリップと今のドリップは違う。もっというと、その間も変化していた。常に美味しいコーヒーを入れるために試行錯誤が伺える。そういえば、学生時代にであった、宮大工を思い出した。その大工さんは「削ろう会」なども主催していて、いろんなん刃物の扱いを教わった。当時、彼はカンナの刃の研ぎ方をに研究していて、刃を90度傾けて研ぎ出していた。あの頃大工さんは60前くらいだったと思うけど、その探究心に感動したことを覚えている。
宮大工さんとは、大学内に茶室を一緒につくっていた。千利休の待庵の写しで、来る日もくる日も、土壁の芯になる竹小舞を削っていた。削るというのは、竹小舞は本来、割って造るのだが、待庵の壁厚は40mm、割竹では壁からはみ出てしまう。そこでナタなどで削って仕上げた。
今、僕は伝統的な建築を中心に設計をしていないが、常滑の住宅で土壁を使うことになった。土は、可逆的な性格を持っている。
常滑の大野町、ここは鎌倉時代から伊勢湾航路で繁栄した湊町です。まだ、あちこちに立派な建物が残っていますが、空き家も目立ち、中でも放置されたものは、屋根が抜けて外壁の板がなくなり、内部の土壁は溶けだしています。
そんな大野町で、住宅の設計依頼を受けました。2世帯住宅ですが、施主は将来、夫婦二人になるのに、大きな家は困ると。しかし、今は両親とお子さん二人の6人で住むには40坪程度必要。
そこで、街におこっている、溶けてなくなる壁を外壁にして、将来、減築できることにした。壁を溶かして、家をいつでも小さくできるのです。土の可逆性については、左官職人の松木憲司さに教えていただいた。大野町の溶けた壁を一緒に見てもらい、なくなる壁をつくって欲しいとお願いした。返事はOKで、なくし方は簡単、外壁の板を外し雨風に当てておけば、軒下に土と竹とシュロ縄が残り、自然素材のそれらは、溶けて、土だけがそこに残る。また、家族が増えたら竹を組んで、溶けた土を練り直し、塗りつければ出来上がり。
本格的に土壁の工事が始まった。松木さんの現場はずっと、見ていて飽きない。手際がよく、チームの誰もが動きがスムーズで迷いがない。仕事を終えて、道具を片付、荷積みまで流れるようだ。もちろん土汚れ無く、サラッと終わっていく。実に始末のいい仕事。
コーヒーの話に戻そう、マスターのドリップはお湯を一滴一滴、豆の中心を狙っているようだ。客前に見せる段取りは、茶人のようで、そうか、茶室空間みたいだ。
小さなカウンターのお店は、コーヒーとケーキを頂くまでの待ち時間もお点前で、よこから見ていると、茶道のような緊張感のようなモノが伝わってくる。
ドリップ講義を終えて、コーヒーの入れ方の基本の作法だけなのだが、深い世界の入り口を見せてくれた。Oさんと興奮しながら店を出た。
優れた仕事には、始まりから終わりまで、迷いなく流れるように始末されていく。こんな気持ち良い仕事を心がけたい。